異世界

異世界転生したら、チートスキルで無双するしかなかった件 ~元中年リーマン、貴族の三男坊になる~

Written by 白子

第一章:終わりと始まり

田中健二(たなかけんじ)、42歳。くたびれたスーツに身を包み、今日も今日とて終電間際の駅へと向かう。彼の人生は、灰色だった。満員電車に揺られ、上司に頭を下げ、部下の尻拭いをし、安酒を呷って眠るだけの毎日。家族もなく、趣味もなく、ただただ会社と家を往復するだけの、すり減った中年男性。それが彼だった。

「疲れたな…」

誰に言うでもなく呟き、ふらりと横断歩道に足を踏み出した瞬間、世界が閃光と轟音に包まれた。大型トラック。ああ、よくあるやつだ。薄れゆく意識の中で、健二は妙に冷静だった。これで、あの退屈な日常から解放されるのか、と。

次に目を開けた時、彼は真っ白な空間にいた。目の前には、黄金の髪を輝かせ、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる絶世の美女が立っていた。

「はじめまして、田中健二さん。わたくしは、世界の理を司る女神、アリアと申します」

女神アリアは、健二がトラックにはねられて死んだこと、そして、彼の魂を別の世界へと転生させることを告げた。転生先は、剣と魔法、そして魔物が存在する、中世ヨーロッパ風の世界だという。

「突然のことでお気の毒でしたので、ささやかながら、わたくしから贈り物(チートスキル)を授けましょう」

女神は悪戯っぽく微笑むと、健二にいくつかの能力を与えた。

  • 【万物鑑定】: 目にしたあらゆるものの情報がわかる。
  • 【無限収納】: 容量無限のアイテムボックス。
  • 【瞬間習得】: あらゆるスキルや魔法を一瞬でマスターできる。
  • 【言語理解】: 全ての言語を理解し、話せる。
  • 【状態異常無効】: 毒や呪いなど、あらゆる状態異常が効かない。

「それでは、健二さん。新たな世界での人生、どうか楽しんでくださいね」

女神の言葉を最後に、健二の意識は再び遠のいていった。

第二章:貴族の揺りかご

次に意識が覚醒した時、健二は赤ん坊になっていた。視界には、豪華な天蓋付きのベッドと、心配そうに自分を覗き込む美しい女性――今世の母親――の顔が見えた。

彼は、アークライト王国の有力貴族、アイゼンハルト公爵家の三男、アレクサンダー・フォン・アイゼンハルト(愛称アレク)として生を受けたのだった。公爵家の三男。つまり、家督を継ぐ立場にはない。それは、自由を意味していた。

アレクは赤ん坊でありながら、中身は42歳の元日本人だ。【言語理解】のおかげで、周囲の会話はすぐに理解できた。そして、【万物鑑定】を使い、自分のステータスや周囲の物品、人々の情報をこっそり確認する日々を送った。

「(ふむ、この世界の魔法は、マナを操作して現象を発現させるのか…)」

乳幼児期から、アレクはその片鱗を見せ始める。乳母が驚くほどの速さで言葉を覚え、家庭教師が舌を巻くほどの理解力で歴史や魔法理論を吸収した。もちろん、それは【瞬間習得】の力によるものだ。夜、皆が寝静まった後には、こっそりと魔法の練習に励んだ。火、水、風、土――基本的な属性魔法は、あっという間に習得してしまった。

「アレクは天才だ!」

両親や周囲は手放しで喜んだが、アレク自身は冷静だった。この力は女神からの贈り物。そして、この世界で自由気ままに生きるための切り札だ、と。彼は、いずれこの家を出て、広い世界を見ることを心に決めていた。

第三章:巣立ちの時

月日は流れ、アレクは15歳になった。貴族の子息として、剣術や魔法、礼儀作法を一通り(もちろん【瞬間習得】で完璧に)身につけた彼は、いよいよ家を出る決意を固めた。

「父上、母上。私は冒険者になりたいと思います」

公爵夫妻は驚いたが、三男であるアレクが家督に縛られないこと、そして何より、彼の持つ規格外の才能を理解していたため、最終的には彼の意思を尊重した。

「アレク、お前の道を行きなさい。だが、アイゼンハルトの名に恥じぬよう、常に誇り高くあれ」

父の言葉を胸に、アレクは【無限収納】に当面の資金と必要最低限の荷物を詰め込み、生まれ育った屋敷を後にした。目指すは、王国最大の都市であり、冒険者ギルド本部がある王都アヴァロンだ。

第四章:ギルドと試練

王都アヴァロンは、活気に満ち溢れていた。石畳の道を馬車が行き交い、様々な人種――人間、エルフ、獣人――が闊歩している。アレクは【万物鑑定】で道を確認しながら、目的の冒険者ギルドへと向かった。

ギルドの建物は、巨大な酒場を併設したような、喧騒に満ちた場所だった。受付で冒険者登録をしたい旨を伝えると、少し態度の悪い受付嬢に書類を渡された。文字は【言語理解】で問題なく読める。必要事項を記入し、登録料を支払うと、次は試験だと言われた。

試験会場である訓練場には、すでに多くの志願者が集まっていた。中には、見るからに柄の悪い連中もいる。

「おい、そこの貴族坊っちゃん。場違いだぜ?」

案の定、絡んできたのは粗暴な三人組だった。アレクはため息をつき、【万物鑑定】で相手のレベルとスキルを確認する。

「(レベル5、スキルは【剣術Lv2】か…雑魚だな)」

「悪いが、君たちに構っている暇はないんだ」

アレクが軽くあしらうと、男たちは逆上して殴りかかってきた。しかし、アレクは【瞬間習得】で得た体捌きでひらりとかわし、最小限の動きで三人を打ちのめした。あっという間の出来事に、周囲は静まり返る。

試験は、筆記と実技に分かれていた。筆記試験は、前世の知識と【瞬間習得】で得たこの世界の知識を組み合わせ、満点を取る。実技試験は、魔法能力の測定だった。試験官が用意した頑丈な的(【万物鑑定】によれば、ミスリル合金製)に対し、アレクは習得したばかりの上級攻撃魔法を放った。

「《エクスプロージョン》!」

轟音と共に、的は跡形もなく消し飛んだ。試験官も他の志願者も、唖然として口を開けている。

「し、試験終了! 合格! ランクは…特例でAランクからスタートだ!」

こうしてアレクは、異例の速さで高ランク冒険者としての第一歩を踏み出したのだった。

第五章:仲間集め

Aランク冒険者となったアレクは、早速ギルドで依頼を受け始めた。最初は単独でゴブリン討伐や薬草採取などをこなしていたが、すぐにパーティーの必要性を感じるようになった。

最初に出会ったのは、セラフィナという名の女騎士だった。銀髪をポニーテールにし、凛とした佇まいの美しい女性だが、少し融通が利かないところがある。彼女が高難易度のワイバーン討伐依頼で苦戦しているところに遭遇し、アレクが加勢。圧倒的な魔法でワイバーンを瞬殺すると、セラフィナは驚きと尊敬の眼差しを向け、アレクのパーティーに加わることを決めた。

次に出会ったのは、魔法使いの少女ルナ。彼女は優秀な魔力の持ち主だが、極度のドジっ子で、詠唱中に転んで魔法を暴発させてしまうこともしばしば。アレクは【瞬間習得】で得た魔法制御の知識を教え、彼女の才能を開花させた。ルナは恩義を感じ、アレクに懐くようになった。

森での依頼中、オークの群れに襲われていたエルフの女性を助けた。彼女の名はエララ。弓の名手であり、自然に関する知識も豊富。物静かだが芯の強い彼女も、アレクの強さと優しさに惹かれ、仲間入りを志願した。

街で獣人の少女が差別を受けている場面に遭遇した。快活な猫耳少女フィーナは、その見た目から不当な扱いを受けていた。アレクは彼女を庇い、その明るさと素早さを見込んでパーティーに誘った。フィーナはアレクを「ご主人様!」と呼び慕うようになった。

最後に加わったのは、神殿に仕える心優しい神官の少女アリア(女神と同じ名前だが別人)。彼女の神殿が悪徳商人の嫌がらせを受けているのを知り、アレクが【万物鑑定】で証拠を見つけ出し、問題を解決した。アリアはアレクの正義感に感銘を受け、回復役としてパーティーに加わった。

こうして、アレクを中心に、美しく個性豊かな女性たちが集まった。彼女たちは皆、アレクの圧倒的な強さ、時折見せる元現代人としてのユニークな発想、そして何よりその優しさに惹かれていた。

「アレク様、すごいです!」

「アレクさんがいれば百人力ですね!」

「さすがアレク…」

「ご主人様、かっこいい!」

「アレクさんの御心のままに…」

賑やかで、少し(?)ハーレムめいた冒険の日々が始まった。

第六章:冒険と人助け

アレクと仲間たちは、アークライト王国を中心に、様々な依頼をこなしていった。ダンジョンの奥深くに潜り、古代の遺物を発見したり、凶悪な魔獣を討伐したり、時には貴族の護衛を務めたり。

どんな困難な依頼も、アレクのチートスキルがあれば容易だった。【万物鑑定】で敵の弱点や罠を見抜き、【無限収納】から最適な装備やアイテムを取り出し、【瞬間習得】であらゆる状況に対応できる魔法や技を繰り出す。毒沼も呪いの罠も、【状態異常無効】のアレクには通用しない。

彼らはただ依頼をこなすだけでなく、道中で困っている人々を見過ごさなかった。魔物に襲われる村を救い、圧政に苦しむ町を解放し、病に倒れた人々をアリアの回復魔法とアレクが見つけた(鑑定した)薬草で癒した。時には、傲慢な貴族を懲らしめることもあった(いわゆる「ざまぁ」展開である)。

アレクたちの活躍は瞬く間に広まり、「銀閃の英雄」とその美しい仲間たちとして、吟遊詩人に歌われるほどの存在になっていった。しかし、その裏で、世界には不穏な影が忍び寄っていた。各地で魔物の活動が活発化し、不吉な噂が囁かれ始めたのだ。――魔王復活の噂が。

第七章:魔王への道

ある日、王都アヴァロンが大規模な魔物の軍勢に襲撃されるという事件が発生した。アレクたちはギルドからの緊急要請を受け、王都防衛戦に参加。その戦いの中で、彼らは魔王軍の幹部と名乗る強力な魔族と対峙する。幹部は圧倒的な力を持っていたが、アレクは仲間たちとの連携と、隠していた更なるチート能力(例えば【魔法創造】など)を駆使してこれを撃破した。

この事件をきっかけに、アレクたちは魔王討伐を決意する。世界各地に散らばる情報を集め、【万物鑑定】で古文書を解読し、ついに魔王の居城が北方の魔大陸にあることを突き止めた。

魔大陸への道は険しく、強力な魔物や魔王軍の残党が次々と襲いかかってきた。しかし、アレクのチート能力と、彼を支える頼もしい仲間たちの力の前には、敵ではなかった。セラフィナの剣が敵を薙ぎ払い、ルナの魔法が広範囲を焼き尽くし、エララの矢が的確に急所を射抜き、フィーナが素早い動きで敵を翻弄し、アリアの祈りが仲間たちを守り、癒した。

第八章:最終決戦

ついにアレクたちは、禍々しい瘴気に包まれた魔王城へとたどり着いた。城の最奥、巨大な玉座の間で待っていたのは、漆黒の鎧を纏い、圧倒的な魔力を放つ存在――魔王マラゴールだった。

「よくぞ来た、小童ども。我が名はマラゴール。この世界を闇に染める者なり!」

魔王の威圧感は凄まじく、セラフィナたちも思わず息を呑む。しかし、アレクは冷静だった。【万物鑑定】で魔王のステータスを確認する。

「(レベル…測定不能? スキルも膨大だな。だが…)」

アレクはニヤリと笑った。

「悪いが、俺のチートの前では、お前もただの経験値だ」

最終決戦の火蓋が切られた。魔王マラゴールは、世界を揺るがすほどの強力な魔法や技を次々と繰り出す。しかし、アレクは【瞬間習得】でそれらを全て見切り、あるいは同等以上の力で相殺する。【状態異常無効】のため、魔王の呪いやデバフも一切効かない。仲間たちが魔王の攻撃からアレクを守り、アレクはその隙に最大火力の攻撃魔法を【魔法創造】で編み出し、叩き込んだ。

激しい攻防の末、アレクは女神から与えられた全てのチートスキルを解放し、渾身の一撃を放つ。

「これで終わりだ! 《ゴッド・ノヴァ》!!」

眩い光が魔王を包み込み、断末魔の叫びと共に、その巨体は塵となって消滅した。

エピローグ

魔王は倒れ、世界に平和が戻った。アレクと仲間たちは、救世主として王国、いや世界中から称賛された。王からは爵位や領地を与えようという話もあったが、アレクはそれを固辞した。

「俺はただの冒険者ですよ。それに、まだ見ていない世界がたくさんありますから」

彼は、これからも仲間たちと共に、自由気ままな冒険を続けることを選んだ。セラフィナ、ルナ、エララ、フィーナ、アリア。五人の美しい仲間たちに囲まれ、今日もアレクは笑顔で荒野を歩む。元くたびれた中年男性の異世界ライフは、チートスキルと最高の仲間たちと共に、どこまでも続いていくのだった。


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