ITIL

ITサービスマネジメント ITIL4 DITS 合格へのロードマップ

※ 「ITIL4 FOUNDATION合格者」を前提としている

  1. 1. 序論:デジタル時代における戦略的ITサービスマネジメント
    1. 1.1 背景:VUCA環境とデジタルトランスフォーメーションの必然性
    2. 1.2 ITIL 4フレームワークにおける「戦略」の再定義
  2. 2. ITIL 4認定スキームとStrategic Leaderの位置付け
    1. 2.1 認定エコシステムの全体構造
    2. 2.2 Strategic Leader (SL) 称号の意義
    3. 2.3 DITSと他のモジュールの関係性
  3. 3. DITS資格の詳細仕様と受験要件の変遷
    1. 3.1 前提資格 (Prerequisites)
    2. 3.2 「3年間の管理職経験」要件の緩和と実態
    3. 3.3 必須トレーニング (Accredited Training)
  4. 4. 試験・評価構造の分析
    1. 4.1 評価コンポーネントの構成
    2. 4.2 実技課題 (Practical Assignments) の詳細
      1. 【重要】2024年7月の評価ルール改定
    3. 4.3 多肢選択式試験 (MCQ Exam) の特徴
    4. 4.4 合格率と難易度分析
  5. 5. ケーススタディ:3つの架空企業と戦略シミュレーション
    1. 5.1 ケース企業のプロファイル詳解
      1. 1. MCL (Music & Cinema Ltd. 推定)
      2. 2. The New Hospitality Company (TNH)
      3. 3. InteLearn
    2. 5.2 共通のリスクシナリオ
  6. 6. カリキュラム詳解:デジタル戦略の中核概念
    1. 6.1 デジタル戦略とIT戦略の統合
    2. 6.2 デジタル破壊 (Digital Disruption) のメカニズム
    3. 6.3 戦略的ポジショニングの4象限
  7. 7. カリキュラム詳解:戦略のジャーニー (The Strategy Journey)
    1. 7.1 ビジョンの定義 (What is the vision?)
    2. 7.2 現状分析 (Where are we now?)
    3. 7.3 将来像の策定 (Where do we want to be?)
    4. 7.4 戦略プランニング (How do we get there?)
    5. 7.5 行動と実行 (Take action)
    6. 7.6 成果測定と維持 (Did we get there? / Keep the momentum)
  8. 8. カリキュラム詳解:戦略的能力 (Strategic Capabilities)
    1. 8.1 デジタルリーダーシップのスタイル
    2. 8.2 イノベーションの管理
    3. 8.3 戦略的リスク管理
  9. 9. 日本市場におけるDITSの現状と受験ガイド
    1. 9.1 受験のコスト感
    2. 9.2 学習リソースと言語
    3. 9.3 合格へのヒント
  10. 10. 結論:DITSがもたらすキャリアと組織へのインパクト
    1. 10.1 キャリアへの価値
    2. 10.2 組織への価値
    3. 10.3 総括

1. 序論:デジタル時代における戦略的ITサービスマネジメント

1.1 背景:VUCA環境とデジタルトランスフォーメーションの必然性

現代のビジネス環境は、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)を特徴とする「VUCA」の時代に突入している。かつて、IT(情報技術)はビジネスプロセスを支援するための「バックオフィス機能」として位置付けられ、効率化やコスト削減が主な評価指標であった。しかし、クラウドコンピューティング、人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)などの破壊的技術(Disruptive Technologies)の台頭により、ITはビジネスの競争優位を決定づける中核要素へと変貌を遂げた。

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単なる既存プロセスのデジタル化(Digitization)やデジタル化(Digitalization)を超え、ビジネスモデルそのものの変革を意味する。この文脈において、従来の「ビジネス戦略」と「IT戦略」という二元論的なアプローチはもはや機能しない。ビジネスリーダーは技術を理解し、ITリーダーはビジネスを牽引するという、役割の融合と戦略の統合(Integration)が不可欠となっている。

1.2 ITIL 4フレームワークにおける「戦略」の再定義

世界で最も普及しているITサービスマネジメント(ITSM)のフレームワークであるITIL(Information Technology Infrastructure Library)は、2019年にリリースされたITIL 4において、このパラダイムシフトに完全に対応した。ITIL v3(2011年版)が「サービスライフサイクル」を中心にプロセス重視のアプローチを採っていたのに対し、ITIL 4は「サービスバリューシステム(SVS)」を核とし、価値共創(Value Co-creation)とバリューストリームを重視する柔軟な体系へと進化した。

このITIL 4体系の中で、特にビジネスリーダーおよび上級ITエグゼクティブを対象に設計された資格が「ITIL 4 Leader: Digital and IT Strategy(DITS)」である。DITSは、ITIL 4の上位資格体系である「Strategic Leader(SL)」ストリームの中核を成し、デジタル技術を活用して組織の方向性を定め、破壊的な市場環境下での生存と成長を実現するための方法論を提供する。

本レポートは、DITS資格の体系的位置付け、試験制度の詳細、学習カリキュラムの深層、そして実務への適用可能性について、最新の調査データ(2024年〜2025年の最新動向を含む)に基づき網羅的に分析するものである。


2. ITIL 4認定スキームとStrategic Leaderの位置付け

2.1 認定エコシステムの全体構造

ITIL 4の認定スキームは、多様な専門性を持つプロフェッショナルのキャリアパスに対応するため、複数のストリームに分かれている。すべての認定の基盤となる「ITIL 4 Foundation」の上に、実務家向けの「Managing Professional (MP)」とリーダー向けの「Strategic Leader (SL)」が存在する構造となっている。

認定ストリーム対象者焦点構成モジュール
Managing Professional (MP)IT実務者、マネージャーサービスの運用、作成、サポート、技術的実践・Create, Deliver and Support (CDS)
・Drive Stakeholder Value (DSV)
・High-velocity IT (HVIT)
・Direct, Plan and Improve (DPI)
Strategic Leader (SL)上級リーダー、経営層ビジネスとITの戦略的整合、デジタル変革の指揮Digital and IT Strategy (DITS)
・Direct, Plan and Improve (DPI)
Practice Manager (PM)特定領域の専門家個別のプラクティス(慣行)の管理と最適化・Monitor, Support and Fulfill
・Plan, Implement and Control 等

2.2 Strategic Leader (SL) 称号の意義

「ITIL 4 Strategic Leader (SL)」の称号は、従来のIT運用管理の枠を超え、組織全体の戦略に影響を与える能力を持つリーダーであることを証明するものである。この称号を得るためには、DITSとDPIの2つの試験に合格する必要がある。

特筆すべきは、Direct, Plan and Improve (DPI) モジュールがMPストリームとSLストリームの共通科目となっている点である。DPIは「方向付け(Direct)」と「計画(Plan)」に焦点を当てており、これが戦略(SL)と実務(MP)をつなぐ架け橋(Universal Module)として機能している。一方、DITSはSLストリームに固有のモジュールであり、ITIL体系の中で最も視座が高く、ビジネス戦略そのものに深く踏み込む内容となっている。

2.3 DITSと他のモジュールの関係性

  • vs DPI: DPIが「決定された戦略をいかに計画し、現場に指示し、改善するか」という実行フェーズに近いガバナンスを扱うのに対し、DITSは「そもそもどのような戦略を採るべきか」「デジタル技術でビジネスモデルをどう変えるか」という最上流の意思決定を扱う。
  • vs HVIT (High-velocity IT): HVITはデジタル組織における高速なデリバリ(アジャイル、DevOpsなど)の技術的・文化的側面に焦点を当てるが、DITSはそのような高速なITを必要とするビジネス背景や市場競争の文脈を提供する。

3. DITS資格の詳細仕様と受験要件の変遷

DITSは、その対象者がリーダー層であることから、他のITILモジュールとは異なる独自の受験要件や評価方法が設定されてきた。ここでは、2024年から2025年にかけての最新の変更点を含めて詳細に解説する。

3.1 前提資格 (Prerequisites)

DITSを受験するための基本的な前提条件は、「ITIL 4 Foundation」認定の保持である。これは揺るぎない要件であり、ITIL 4の基本概念(4つの次元、SVS、サービスバリューチェーンなど)を理解していなければ、DITSの高度な内容を理解することは不可能であるためである。

3.2 「3年間の管理職経験」要件の緩和と実態

DITSのリリース当初、この資格は「リーダー向け」であることを担保するため、「最低3年間のIT管理職としての実務経験(managerial experience)」が必須要件とされていた。受験者はトレーニング受講前に履歴書や職務経歴書を提出し、認定トレーニング機関(ATO)による審査を受けるプロセスが存在した。

しかし、2024年から2025年にかけての市場動向およびコミュニティからの報告を総合すると、この要件の運用は大きく変化している。

  • 現状の運用: PeopleCertおよびAxelosの方針変更、あるいは運用の実質的な緩和により、多くのATOにおいて「3年の管理職経験」は必須の「ゲートキーパー(門番)」ではなくなり、「推奨事項(Recommendation)」へと移行している可能性が高い。
  • 背景: デジタルリーダーシップは必ずしも伝統的な「管理職(Manager)」の肩書きを持つ者だけに求められるものではなく、プロダクトオーナーやリードエンジニア、コンサルタントなど、実質的なリーダーシップを発揮する多様な役割が必要としているという認識の広がりがある。また、受講のハードルを下げることで資格普及を促進する狙いもあると推測される。
  • 注意点: 公式シラバスや一部のATOのWebサイトには依然として「3年の経験が必要」との記載が残っている場合がある。しかし、実際には履歴書の提出が求められなかったり、自己申告のみで済むケースが増加している。受験者は申し込み時にATOへ確認することが賢明である。

3.3 必須トレーニング (Accredited Training)

DITSは独学(Self-study)のみでの受験は認められておらず、認定トレーニング機関(ATO)が提供する公式トレーニングコースの受講が必須である。これは、後述する「実技課題(Practical Assignments)」がカリキュラムに統合されているためである。


4. 試験・評価構造の分析

DITSの評価プロセスは、知識の記憶を問うだけでなく、実践的な適用能力を測るために設計されたハイブリッド型である。

4.1 評価コンポーネントの構成

合格認定を得るためには、以下の2つの要素をクリアする必要がある。

コンポーネント内容配点/合格基準備考
1. 実技課題 (Practical Assignments)ケーススタディに基づく4つの課題40点満点中30点以上 (75%)コース受講中に実施。2024年7月より採点要件が変更(後述)。
2. 多肢選択式試験 (MCQ Exam)コンピュータベースの筆記試験30問中21問正解 (70%)実技課題完了後に受験資格付与。試験時間60分。

4.2 実技課題 (Practical Assignments) の詳細

DITS最大の特徴である実技課題は、実際のビジネスシナリオに近い状況で戦略を立案する演習である。

  • 課題数: 4つの課題(Assignments)。
  • 形式:
    • クラスルーム/バーチャル研修: グループワーク形式で行われることが多く、議論を通じて回答を作成する。グループメンバーは同一の評価を受ける。
    • eラーニング: 個人で取り組み、提出する。
  • 所要時間: 各課題につき60分(一部90分の課題もある)。
  • 評価基準 (Assessment Criteria):
    • ITILの指針(Guiding Principles)の適用。
    • デジタルポジショニングツールの使用。
    • 戦略的アプローチの策定。
    • VUCA要因の分析と対応。

【重要】2024年7月の評価ルール改定

2024年7月1日付けで、PeopleCertは実技課題の運用に関する重要な変更を行った。

  • 変更前: 実技課題はインストラクターによって厳密に採点(Grading/Marking)され、合格点に達しなければMCQ試験を受けることができなかった。不合格の場合は追加課題の実施が必要であった。
  • 変更後: 実技課題の完了(Completion)は引き続き必須であるが、採点(Grading)はもはや必須要件(Mandatory)ではなくなった
    • 意味合い: 受講者は依然として課題に取り組む必要があるが、インストラクターによる合否判定プロセスが簡素化された。これにより、採点待ちによるタイムラグが解消され、よりスムーズにMCQ試験へ進むことが可能になった。ただし、教育的観点からは、インストラクターからのフィードバックを受けることが推奨されることに変わりはない。

4.3 多肢選択式試験 (MCQ Exam) の特徴

  • 問題数: 30問(他のITIL試験の40問より少ない)。
  • 難易度: ブルームのタキソノミー(Bloom's Taxonomy)におけるレベル2(理解)とレベル3(応用)の問題で構成されている。
    • レベル2 (40%): 概念の理解を問う問題。
    • レベル3 (60%): シナリオに基づき、適切なアクションや判断を選択する問題。
  • 試験環境: オンラインプロクタリング(Online Proctored)が主流であり、自宅やオフィスから監視付きで受験可能。クローズドブック形式(資料持ち込み不可)。

4.4 合格率と難易度分析

調査データによると、DITSの合格率は非常に高く、**92%〜100%**という数値が報告されている。

  • 要因分析:
    • 受験者の多くが既にITIL 4 Foundationや他の上位資格を保持しており、基礎知識が十分にある。
    • 実技課題を通じて深い理解が得られるため、MCQ試験への準備が整いやすい。
    • 受験者層がシニアレベルであり、ビジネス経験が豊富であるため、戦略的な文脈を理解しやすい。
    • ただし、一部の受験者からは「エグゼクティブ視点(Exec-think)への切り替えが難しい」「技術的な正解ではなく、戦略的な正当性を問われる点が厄介」といった声もあり、油断は禁物である。

5. ケーススタディ:3つの架空企業と戦略シミュレーション

DITSの実技課題では、共通のケーススタディ資料が使用される。この資料には、異なる業界、規模、課題を持つ3つの架空企業が登場する。学習者はこの中から1社を選択し、その企業のデジタル戦略責任者として振る舞うことが求められる。

5.1 ケース企業のプロファイル詳解

文献調査に基づき、使用される3社のプロファイルと想定される戦略的課題を以下に整理する。

1. MCL (Music & Cinema Ltd. 推定)

  • 業種: 伝統的なメディア・エンターテインメント、または物流・製造関連(名称からの推測および関連資料に基づく)。
  • 特徴: 長年の歴史を持つ伝統的企業(Traditional Company)。物理的な製品やサービス提供に強みを持つが、デジタル化の波に乗り遅れている可能性がある。
  • 直面する課題:
    • デジタル破壊: ストリーミングサービスやサブスクリプションモデルを持つ新規参入者(NetflixやSpotifyのような存在)による市場シェアの浸食。
    • レガシーシステム: 古いITインフラがアジリティを阻害している。
  • DITSでの学習ポイント: 「変革(Transformation)」アプローチ。既存のビジネスモデルをいかにデジタルシフトさせるか、カニバリゼーション(自社競合)を恐れずにデジタルサービスへ移行できるかが問われる。

2. The New Hospitality Company (TNH)

  • 業種: ホスピタリティ(ホテル、旅行、宿泊サービス)。
  • 特徴: 顧客サービスを重視する企業。物理的な施設(ホテルなど)とデジタル接点(予約アプリ、スマートキーなど)の融合が鍵となる。
  • 直面する課題:
    • 顧客体験 (CX) の断絶: オンライン予約から宿泊、チェックアウトまでの一貫したシームレスな体験の提供。
    • プラットフォーマーの脅威: OTA(Online Travel Agent)やAirbnbのようなP2Pサービスとの競争または共存。
  • DITSでの学習ポイント: 「オムニチャネル戦略」と「カスタマージャーニー」。デジタル技術を用いて、物理的なサービスの価値をいかに高めるか(Phygital: Physical + Digital)が焦点となる。

3. InteLearn

  • 業種: 教育・トレーニングサービス。
  • 特徴: 知識産業。物理的な教室での講義から、オンライン学習、AIによるアダプティブラーニングへの移行期にある。
  • 直面する課題:
    • サービスのコモディティ化: MOOCs(Massive Open Online Courses)などの安価なオンライン教材との差別化。
    • グローバル化: デジタル配信による商圏の拡大と、それに伴う新たな競争。
  • DITSでの学習ポイント: 「イノベーション」と「新技術の採用」。AIやVR/ARを活用した没入型学習体験の創出など、技術主導の差別化戦略が求められる。

5.2 共通のリスクシナリオ

ケーススタディには、これら全社に共通して影響を与える「主要なリスク(Major Risk)」が含まれている。これは例えば、世界的なパンデミック、サイバーセキュリティの大規模な脅威、あるいは経済的な激変などが想定される。受験者は、選択した企業の文脈でこの共通リスクをどう管理・軽減するかを戦略に組み込む必要がある。


6. カリキュラム詳解:デジタル戦略の中核概念

ここからは、DITSコースで扱われる具体的な学習内容について詳述する。DITSのカリキュラムは、単なる知識の伝達ではなく、思考フレームワークの獲得を目的としている。

6.1 デジタル戦略とIT戦略の統合

DITSでは、以下の定義を用いて戦略の階層を整理する。

  • ビジネス戦略 (Business Strategy): 組織全体の目標と方向性。
  • デジタル戦略 (Digital Strategy): デジタル技術を活用してビジネス戦略を実現し、ビジネスモデルを変革するための戦略。「ITによるビジネス(Business by IT)」。
  • IT戦略 (IT Strategy): ビジネスおよびデジタル戦略を支えるための技術、人、プロセスの提供・管理に関する戦略。「ビジネスのためのIT(IT for Business)」。

従来、これらは別個のものとして扱われてきたが、DITSではこれらを**「デジタル&IT戦略」**として統合することを提唱する。DXが進んだ組織では、もはやITを含まないビジネス戦略は存在し得ないからである。

6.2 デジタル破壊 (Digital Disruption) のメカニズム

デジタル破壊とは、デジタル技術によって既存の市場の価値提案や競争ルールが根本的に変化することを指す。DITSでは、破壊を以下の2つの視点から分析する。

  1. 脅威としての破壊: 自社のシェアや収益性を損なう外部からの圧力。
  2. 機会としての破壊: 自らが破壊者(Disruptor)となり、新たな市場を創出するチャンス。

6.3 戦略的ポジショニングの4象限

組織が環境変化にどう対応するかを決定するために、以下のマトリクスを用いたポジショニング分析を学ぶ21

アプローチ説明適応状況
進化 (Evolution)既存の製品・サービスを段階的に改善する。リスクは低い。市場が安定的で、自社が強い地位にある場合。
変革 (Transformation)ビジネスモデルやプロセスを根本的に刷新する。高リスク・高リターン。市場が激変しており、現状維持では生存できない場合。
転換 (Repurposing)既存の資産や能力を、全く異なる目的や市場に転用する。予期せぬ市場の変化や危機(例:パンデミック時の製造ライン転用)への対応。
新規作成 (New/Greenfield)全く新しいベンチャーやサービスをゼロから立ち上げる。既存のしがらみを排除してイノベーションを追求する場合。

7. カリキュラム詳解:戦略のジャーニー (The Strategy Journey)

戦略策定から実行、評価までのプロセスを、ITILの「継続的改善モデル」に沿って学ぶ。

7.1 ビジョンの定義 (What is the vision?)

  • デジタルビジョン: 技術がもたらす未来像を含めた組織のあり方。
  • DITSでは、ビジョンが単なるスローガンに終わらず、ステークホルダーに行動を促す強力なメッセージとなるよう設計する方法を学ぶ。

7.2 現状分析 (Where are we now?)

  • デジタル準備状況評価 (Digital Readiness Assessment): 組織文化、スキル、技術基盤、ガバナンスがDXに対応できる状態にあるかを客観的に評価する。
  • PESTLE分析: マクロ環境分析を通じて、外部からの圧力と機会を特定する。

7.3 将来像の策定 (Where do we want to be?)

  • ギャップ分析: 現状とビジョンの間にある乖離を明確化する。
  • 目標設定: SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)な目標を設定する。

7.4 戦略プランニング (How do we get there?)

  • アジャイルな戦略策定: 長期固定的な計画(5カ年計画など)ではなく、短期的なサイクルで環境変化に適応できる柔軟なロードマップを描く。
  • 並行運用 (Parallel Operation): 既存ビジネス(Cash Cow)を維持しながら、新規ビジネス(Innovation)を育てる「両利きの経営(Ambidexterity)」の実践方法。

7.5 行動と実行 (Take action)

  • 組織変更管理 (OCM): 戦略実行の最大の障壁となる「人の抵抗」を管理する。
  • 教育と能力開発: 新しい技術や働き方に適応するためのリスキリング。

7.6 成果測定と維持 (Did we get there? / Keep the momentum)

  • OKRs (Objectives and Key Results): 目標と主要な成果指標を用いた管理。
  • メトリクス: 財務指標だけでなく、イノベーション率や顧客エンゲージメントなどの先行指標を活用する。

8. カリキュラム詳解:戦略的能力 (Strategic Capabilities)

8.1 デジタルリーダーシップのスタイル

デジタル時代に求められるリーダーシップスタイルとして、以下のアプローチを学ぶ。

  • アジャイルリーダーシップ: 自律的なチームを支援し、障害を取り除く。
  • 関係性重視のリーダーシップ: エコシステム全体(パートナー、サプライヤー含む)との協調を促進する。
  • リスク・テイキング: 失敗を許容し、そこからの学習を奨励する文化(Blameless Culture)の醸成。

8.2 イノベーションの管理

イノベーションを偶発的な天才のひらめきに頼るのではなく、プロセスとして管理する手法。

  • イノベーションパイプライン: アイデアの創出、選別、実験(PoC)、スケールアップの各段階を管理する。
  • 導入ライフサイクル: アーリーアダプターからマジョリティへの普及戦略(キャズム理論の応用)。

8.3 戦略的リスク管理

VUCA環境ではリスクをゼロにすることは不可能である。DITSではリスクを以下の3つに分類して管理する。

  1. 機会リスク: 挑戦することで得られるリターンに関連するリスク。積極的にテイクすべきもの。
  2. 不確実性リスク: 結果が予測できないリスク。実験とフィードバックで管理する。
  3. ハザードリスク: セキュリティ侵害やコンプライアンス違反など、純粋な損失をもたらすリスク。防御すべきもの。

9. 日本市場におけるDITSの現状と受験ガイド

9.1 受験のコスト感

日本国内において、認定トレーニング(試験バウチャー込み)を受講する場合の費用相場は、約20万円〜30万円前後である。再受験用のバウチャー単体(Take2オプションなど)は別途費用がかかる場合があるが、多くのトレーニングプロバイダーは試験料込みのパッケージを提供している。

9.2 学習リソースと言語

  • 日本語対応: 試験および公式書籍(Core Guidance)は日本語化されており、日本人受験者にとってハードルは低くなっている。
  • トレーニング提供: ITプレナーズや各認定教育機関が日本語での講義(バーチャルまたは対面)を提供している。

9.3 合格へのヒント

  • ITIL 4の「概念」を「戦略」に翻訳する: Foundationで学んだSVSやSVCを、単なる図としてではなく、「ビジネス価値を生み出すためのエンジン」としてどう動かすかを考える。
  • 正解ではなく「妥当性」を追求する: 実技課題やレベル3問題では、絶対的な正解がない場合がある。なぜその選択肢が、置かれた状況において最も合理的(Justifiable)なのかを論理的に考える思考プロセスが重要である。
  • ケーススタディへの没入: MCLやTNHの抱える課題を他人事と思わず、自社の課題と重ね合わせてシミュレーションすることが、合格への近道であり、学習効果を最大化する鍵である。

10. 結論:DITSがもたらすキャリアと組織へのインパクト

10.1 キャリアへの価値

ITIL 4 DITSの取得は、プロフェッショナルとしてのキャリアにおいて重要な転換点となる。それは「ITの専門家」から「ビジネスの変革リーダー」への脱皮を意味する。Cレベル(CIO, CTO, CDO)を目指す者にとって、技術と経営をつなぐDITSの知識体系は強力な武器となる。また、ITIL Masterという最高峰の称号を得るための必須要件でもあるため、ITSM領域でのキャリアの頂点を目指す上でも避けて通れないマイルストーンである。

10.2 組織への価値

組織にとって、DITS有資格者を擁することは、デジタル戦略の精度と実行力を高めることに直結する。共通言語としてのITIL 4を用いることで、部門間のサイロを破壊し、組織全体が一丸となってデジタル変革に向かうための基盤が整う。特に、失敗が許されない大規模なDXプロジェクトにおいて、リスクを適切に管理しつつイノベーションを推進するための羅針盤として機能するだろう。

10.3 総括

2024年の評価プロセス改定により、DITSはよりアクセスしやすい資格となったが、その本質的な難易度と価値はいささかも損なわれていない。むしろ、生成AIやWeb3といった新たな波が押し寄せる現在において、その重要性は増していると言える。DITSは、変化の波に飲み込まれるのではなく、波を乗りこなし、新たな地平へと組織を導くリーダーのための必須教養である。

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